【特集記事】果樹栽培におけるドローン活用の現状と課題 〜和歌山県果樹試験場に聞いてみました〜

和歌山県果樹試験場でのドローン活用事例

和歌山県農林水産部による2015年のデータによると、和歌山県下の果樹栽培農家数は13,932戸。そのうち温州みかんは7,554戸、うめは5,087戸、かきは2,690戸が栽培しています。作地面積の構成でもみかんが25.5%、うめ18.1%、かき8.8%と主要三品目で作地面積の半分以上を占めており、生産量もみかんが160,200t、うめは63,800t、かきは50,500tとそれぞれ国内No1のシェアを誇っています。

全国でも果樹生産地として知られる和歌山県ですが、生産者の高齢化、減少化といった問題に直面しており、その対策が喫緊の課題とされています。そんな中、これらの問題を解決できる可能性があるのではないか? と注目されているのがドローンです。今回、クオリティソフト社でドローン事業に携わっている東(あずま)が和歌山県果樹試験場を訪れ、和歌山県の果樹栽培におけるドローンでの取り組みや可能性についてうかがいました。

進む農家の高齢化と急がれる作業の機械化

(東)クオリティソフト社ドローンビジネス開発部の東と申します。普段は農業だけでなく、空撮や測量、太陽光パネルやダム、橋脚等の点検、災害調査や人命救助など、多種多様な企業・自治体とドローンを通じて関わっています。本日はよろしくお願いします。

(熊本氏)和歌山県果樹試験場の熊本です。よろしくお願いします。

(東)早速ですが、みかんや梅などの果物の収穫量の多い和歌山県ですが、農家さんの現状はどのようになっていますか?

(熊本氏)ご存知のように、農業を行なっている生産者の高齢化が進んでいます。だんだん生産者も減ってくることが予想される一方、新規に就農される人は少ないのが現状です。

(東)これからの果樹栽培はどのような形になっていくのでしょうか?

(熊本氏)今後は一人で大規模管理ができる時代になるのではないでしょうか。そのためにもドローンなどの機械化は自然な流れといえます。

(東)自治体同士では、ドローンなどの取り組み結果などを共有されているのでしょうか?

(熊本氏)農林水産省がスマート農業、スマート機器の推進を行なっており、情報共有がはかられています。
和歌山県でも2017年に、ドローンの活用について検討する事業が立ち上がりました。そこで我々の果樹試験場が担当となり、まずは「柑橘類で活用できるか」を考えることになりました。
この事業の目的は「省力化」ということなのですが、果樹は急傾斜畑が多いため、そこでの作業の労力は大変なものがあります。
しかし急傾斜であるがために機械の導入が難しかったという事情があり、省力化は常に望まれていました。そこでドローンであれば、何かしら導入のメリットがあるのでは、と考えたのです。

熊本 昌平氏 和歌山県果樹試験場 主査研究員

(東)今は農業に限らずいろんな分野で「働き方改革」が叫ばれており省力化の動きになってきていますので、同じように農業に関してもドローン等を活用した省力化が大きな課題になってきているということですよね。
和歌山県ではどのような取り組みをされていますか?

(熊本氏)和歌山県のドローンにおける取り組みとしては「画像解析、リモートセンシング(遠隔観測)」と「農薬散布」についての可能性について確認することになっています。

まず「画像解析」についてですが、通常のカメラを用いたほ場の撮影に加え、センシングを実際に行ない、活用できるかどうかを検証しています。

次に「農薬散布」ですが、ドローンで散布する場合は高濃度の農薬を散布するというのが一つの条件になっています。みかんもしくはかんきつで登録されている高濃度で散布可能な農薬は5剤しかないため、その中でも効果が期待できそうな、ジマンダイセン水和剤で散布したときの薬剤の付着状況や、黒点病の発生状況、そしてその防除効果について研究を進めているところです。

(東)おっしゃられた「画像解析」というのは、マルチスペクトラルカメラ(波長のパターンを分析できるカメラで、目視以上のデータが得られる)を使った果樹の水分量や栄養素の含有量のチュックを行うことですね。
農作業ではありませんが、私どももマルチスペクトラルカメラを使って、ゴルフ場の芝の管理について実証実験を試みたことがあります。しかしデータ取得から解析まで、大変な時間がかかるんですよね。
画像で色の変化を見ることができるので「この色の場合はこういう状態だ」というデータをとっていく必要がある。その変化が何なのかを調べることに時間がかかりました。果樹でも同様のデータを蓄積中ということですね。

東 裕也(あずま ゆうや)
クオリティソフト 株式会社 開発本部 ドローンビジネス開発部課長

果樹栽培にドローン導入が進まない理由

(東)果樹に農薬散布をする場合、「葉裏に農薬を付着させることができにくい」ということが課題になっていると聞きますが。

(熊本氏)はい、その通りです。日本各地でドローンでの農業への活用が取り上げられていますが、これは主に水稲ですよね。水稲の場合、丈が低いため上から下に農薬を散布しても、比較的薬液がかかりやすいのです。

しかし和歌山県の主要農作物となる果樹、すなわち「みかん」や「うめ」などは、樹高が数mあります。そのため上から散布しても、何層も葉や果実が重なっていて農薬を均等に散布することが難しいのです。

(東)ドローンはダウンウオッシュを利用して上から下に農薬を散布しますからね。下に回り込んで上に向けて散布できるものがあればいいのですが、斜面にある果樹への農薬散布には平面の制御だけでなく高さの制御も必要になりますので、まだまだ果樹栽培でのドローンでの運用は難しいというのが、ドローンに携わっている我々も感じているところです。

機体の位置精度を高めた装置を搭載した機体が、樹の周りをピンポイントで回って散布するような機能を持ったドローンはでてきているんです。しかしそれでも農薬散布方法が「上から下」なので根本的な解決に至っていないといえるでしょう。

(熊本氏)農薬散布を行なう際には、ノズルを曲げて上に散布すればいいように思えますが、そもそも樹の間にノズルを入れるのは、枝にノズルが引っかかってドローンが墜落する可能性が高いのです。
画像解析や農薬散布について研究の進み具合で言えば、果樹の場合、まだ試験事例がほとんどなく、これから数年をかけてデータをとらないとわからない段階です。

(東)現状での農薬散布は人が目視で微調整しながら散布されていますが、ドローンでそこまでの散布レベルには到達していない、ということですよね。

(熊本氏)そうですね。ただ現在活用している農薬散布用スプリンクラーがあるのですが、これも散布する方向が決まっていて、場所によっては散布ムラがでることがあります。ですので、ドローンによる農薬散布がスプリンクラーと同等の散布ができれば、これから農薬散布用の施設の導入を検討される方の選択肢の一つになるかと思います。

(東)最低限の目標として、スプリンクラー並みに散布できることが問われているということですね。スプリンクラーと同等ということであればドローンによる散布も一気に現実味を帯びてくるといえそうですね。

果樹栽培におけるドローンの可能性

(熊本氏)御社では農業におけるドローンの取り組み例はありますか?

(東)はい。先ほどの果樹での実証実験だけでなく、山林で問題となっている害獣駆除にドローンを活用した例があります。これは実際に体温を感知できるサーモカメラを搭載したドローンで、害獣の集まっている位置を特定し、その位置情報をハンターさんに伝えるという方法を実施するという方法でした。

我が社にも農家の方から「ドローンで農作物を積んだコンテナを運べないか?」という相談を受けることがあるのですが、なかなか難しいのが現状です。

たとえば林業されている方は、麓から山の頂上までドローンをつかって重いチェーンソーを運ぶということをされている例がありますが、重量が重いものを運ぶというのは、まだまだリスクが高いんですね。

果樹農家が収穫した農作物をドローンを使って運ぶ、という場合、現状では30kg程度のコンテナであれば大型のドローンを使えば運べない訳ではありませんが、ドローンに30kgもの重量のものを吊った状態で運ぶとなると、風の影響などで不安定になるかもしれないといったリスクが増大します。そのため現状でドローンが安定して運搬できるは10kg程度の重量のものを運ぶといったところでしょうか。

(熊本氏)農作業で収穫時に使用するコンテナは、一つが約20kgなので、最低限これくらいは安定して運べるようになるといいんですが。一度で10kg程しか運べないとなると、小分けとなってかえって手間になってしまいますね。

(東)手間がかかっては「省力化」とは離れてしまいますよね。
果樹栽培において、全作業をドローンで代替するということはまだ少し先のようですが、ドローンの可能性についてどのようにお考えですか?

(熊本氏)ドローンですぐに農作業すべての問題が解決するわけではないと思いますが、作業の一部、特に重労働となる収穫時の運搬作業の解消ができれば、と期待しています。そしてコストを抑えることができれば、一気に導入が進んでいくと思うのです。

(東)「収穫時の運搬に特化したドローン」、「導入コストが安い」ということが果樹農家の要望が強いキーワードということですね。さらに農薬散布についても、有効な散布角度を判断し、的確な噴射方法を見つけることで、果樹農家の省力化に貢献できるということですね。
今後も何かあればご協力させていただきますので、引き続き研究にご尽力ください。ありがとうございました。

(熊本氏)ありがとうございました。

和歌山県果樹試験場にて

対談を終えて

2018年の農水省のデータによると日本国内の農業従事者は175万 3000人、平均就農者年齢は 66.8歳となっています。これは 2010年と比較すると農業従事者は 85 万人の減少しています。今後、農業従事者が高齢化していくことにより、引退者や休耕地が増加し、農家ひとりあたりの管理農地が拡大していくことなど、潜在的な影響が予想されています。

そんな中、ドローンを始めとした機械化の導入は早くから叫ばれており、すでに現場での取り組みも行われるようになってきています。

対談でも触れましたが、稲のように、平面に均等の高さで栽培されるものであれば、ドローンを使って農薬散布することは比較的容易なのですが、急傾斜な場所に作られる果樹の場合、それだけで重労働になってしまう現状があるにもかかわらず、樹木の形状ゆえに上からの農薬散布が難しいため、機械化が遅れている現状です。

本来、このような人的労力がかかる現場にこそドローンなどの機械化が急がれるのですが、なかなか根本的な解決が行なわれず、参入企業も少ないため機械化の波に取り残されかねないという問題が起きています。

果樹王国呼ばれる和歌山県に拠点を置くクオリティソフト社では、果樹農家への支援とともに日本の果樹生産を支えるためにも今後も自治体や果樹農家のドローン活用支援および省力化のための取り組みを支援していきます。


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